かつて排出量削減を約束していた大手テック企業は現在、化石燃料で動く巨大データセンターの建設を急いでいる。こうした状況下では、人工知能(AI)を持続可能なかたちで開発することは夢物語のようにしか思えない。AI開発を何よりも優先する流れは、環境保護規制の緩和を進めるトランプ政権によっても後押しされている。
こうした逆風のなかでも、顧客である企業と個人の双方からAIの透明性向上を求める声がこれまでになく高まっていると、AIの持続可能性を研究するサシャ・ルチオーニは考えている。
ルチオーニはAI企業Hugging Faceで働いた4年間、AIの排出量と環境への影響について透明性を高める取り組みを主導してきた。その一環としてルチオーニは、オープンソースAIモデルのエネルギー効率に基づくランキングをいち早く立ち上げている。またルチオーニは、エネルギーや持続可能性に関する情報を意図的に公開していないとして、大手AI企業を公然と批判してきた。
ルチオーニはSalesforceの元サステナビリティ責任者であるボリス・ガマザイチコフとともに、新事業Sustainable AI Groupを立ち上げた。企業が「エージェントの悪影響を少しでも小さくするために、どの要素を調整できるのか」といった問いに答えられるよう支援する会社だ。ルチオーニはまた、音声をテキストに変換する機能や、写真から動画を生成する機能など、AIツールの種類ごとに必要なエネルギー量を把握できるようにすることにも関心を寄せている。この分野はこれまで十分に研究されてこなかったと、ルチオーニは説明する。
ルチオーニは『WIRED』の独占取材に応じ、持続可能なAIへの需要と、大手テック企業に何を求めているのかについて語った。
このインタビューは、長さとわかりやすさを考慮して編集している。
AI利用と環境負荷の可視化
──環境への影響とAI利用について懸念する個人の声はたびたび耳にします。しかし、この問題について考えている企業側の声はあまり聞きません。事業でAIを使っている人たちからは、具体的にどのような話を聞いていますか。そうした人たちは何を懸念しているのでしょうか。
サシャ・ルチオーニ:まず、企業は従業員から強い圧力を受けています。それに加えて、取締役会や役員からも「これを定量化する必要があります」と求められているのです。従業員からは、「会社はわたしたちにCopilotの利用を求めていますが、それはESGの目標にどう影響するのですか」といった疑問が投げかけられています。
多くの企業は、AIを顧客に提供する製品の中核に組み込んでいます。したがって、企業はリスクを理解しなければなりません。それにはモデルがどこで動いているのかを把握する必要があります。データセンターの場所や接続している電力網すら知らないままモデルを使い続けることはできません。サプライチェーンに伴う排出量や輸送に伴う排出量など、さまざまな要素を把握する必要があるということです。
これは、AIを使わないという話ではありません。わたしたちはすでに、それを議論する段階を過ぎていると思います。大切なのは、たとえば適切なモデルを選ぶこと、あるいはエネルギー源を重視する姿勢を示すことです。そうすれば顧客は再生可能エネルギーで動くデータセンターを利用するために、少し多めに支払うことを受け入れるようになるでしょう。やり方はあります。重要なのは、適切な場所にいる賛同者を見つけることです。
──グローバル企業にとっては、持続可能性を巡る事情は米国の場合とはかなり違うのではないでしょうか。米国政府はこの問題をまったく気にしていないのかもしれませんが、ほかの政府は確実に重視していますよね。
欧州には「EU AI法」があります。持続可能性は当初から、そのなかでかなり重視されてきました。多くの条項が盛り込まれており、いま情報開示の取り組みも始まっています。
アジアでも透明性を高めようとする動きがあります。国際エネルギー機関(IEA)は、AIとエネルギー使用に関する報告書をまとめています。IEAの人たちと話したところ、IEAが各国から数字を集めていることをそれぞれの国は認識している一方で、データセンターに特化した数字をもっていない国もあると言っていました。そうした数字がなければ、将来を見据えた決断はできません。「つまり、今後5年でこれだけの容量が必要になる」といったことを把握するには数字が必要です。一部の国では、データセンター事業者に対する反発や規制強化の動きも出始めています。
大手AI企業に求める透明性
──もし明日、魔法の杖を振ってサム・アルトマンやダリオ・アモデイなどから、あなたが求めている情報をひとつ開示させられるとしたら、それは何になりますか。それとも、大手AI企業のトップには、自分たちがもっている情報を全般的にもっと公開してほしいと考えていますか。
ChatGPTやClaudeのユーザーが操作する画面に、小さなメーターや情報欄があるといいなと思っています。各クエリややりとりの最後に、どれだけのエネルギーが使われたのかを示すものです。理想を言えば、温室効果ガスの排出量と、そのエネルギーがどのように発電されたのかも表示してほしいです。
大手AIモデルの提供企業のどこかが、持続可能性を重視する方針を打ち出せば、それは市場競争上の優位性になると思います。いまは各社が内輪で争い、互いに出し抜こうとしています。そのうちの1社が「よし、天然ガスを使うデータセンターをつくるのはやめて、再生可能エネルギーを使うデータセンターをつくろう」と言えば、実際に優位に立てるのではないでしょうか。Anthropicが軍事利用をめぐって米国政府に「ノー」と言ったときのようなものです。あれは同社に追い風をもたらしました。
──文化的な意味での追い風ですね。
その通りです。
大規模モデル以外の選択肢
──AIを巡っては、大規模なクローズドモデルだけが唯一の選択肢であるかのように語られている気がします。あなたが話す人たちは、すべての用途で大規模モデルを使う必要はないということを理解しているのでしょうか。それも、あなたが人々に伝えていることの一部なのでしょうか。
もちろんそれも伝えています。少しオタクっぽいかもしれませんが、わたしは「そもそもAIとは何なのか」といった根本的なことを考えるのが好きです。人々はAIが社会に革命を起こしていると言いたがりますが、これまで地道な役割を果たしてきたモデルは大規模言語モデル(LLM)ではありません。分類器です。こうしたシステムこそ、わたしたちがAIによる生産性として見てきたものの中核をなしてきました。
わたしはいつも、わたしたちにとって実際に役に立っているものと、企業が売り込もうとしているものを分けようとしています。たとえば、金融業界で働いている人は、市場がどこに向かうのかを見極めたいと考えるでしょう。それには汎用型のLLMは必要ありません。
グーグルは、送信されたトークン数と受信されたトークン数に関する数字を開示しています。これは非常に重要な情報です。それによって、たとえばクエリがとても単純なら、よりシンプルなモデルを使えると判断できます。従業員の多くが画像生成に使っているなど、そうした利用状況も把握できます。
これはつまり、社内の人に向けて「会社の文書を検索したいだけなら、このモデルを使ってください。シンプルに使えてコストも低いです。詳しい調査をしたいなら、こちらのより複雑なモデルがあります」と言えるようになるということです。
──大規模モデルを開発している企業は、ほかにも選択肢があることをあまり知られたくないのではないかと感じることもあります。
この分野では、関係者同士の利害がかなり密接に絡み合っています。モデルをつくっている大手企業の多くは、計算資源を販売している企業でもあります。そうした企業にとっては、最大のモデルを売るのが合理的です。計算資源を多く必要とするからです。
データセンターの運用や利用料金の請求を担う企業、モデルを訓練する企業、そしてそれらのモデルをもとに製品をつくる企業が完全に分かれていれば、つまり、それぞれがまったく別の主体であれば、いまのAIにははるかに多様性があったはずです。
必要なのは正確な数字
──わたし自身、AIを巡って環境面で起きていることには本当に多くの懸念があります。ただ、この議論が硬直化し、さまざまな観点を欠いたものになっていることに違和感もあります。そうした議論に対して、あなたはどのように向き合っていますか。
研究者として、根拠を示せない数字に基づいて語るわけにはいきません。ただ一方で、規模感や細かなニュアンスを伝えることは本当に難しいと感じています。
個々のクエリひとつひとつは、大した問題ではないかもしれません。でも、それがこれらのツールを使う人の数だけ積み重なることになります。これは本当に難しい議論です。
十分な情報に基づいて判断するには、エネルギーと水の使用量に関する数字がやはり必要です。たとえその数字が小さなものだとしても、わたしたちはそれを把握すべきです。輸送に関する数字、栄養に関する数字など、こうしたさまざまなものを数字で把握しているわけですから。
(Originally published on wired.com, translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)
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