なぜ楽な「ゾーン2トレーニング」が注目を集めるのか? 注意点やメリットを解説

最先端のフィットネストラッカーが何を表示しようとも、低強度のトレーニングがもたらすメリットはあなどれない。
なぜ楽な「ゾーン2トレーニング」が注目を集めるのか? 注意点やメリットを解説
Photographs: Getty Images; Collage: Gabe Conte

フィットネスのトレンドを何となくチェックしている人も、熱心に追いかけている人も、「ゾーン2トレーニング」という言葉を耳にしたことがあるかもしれない。このトレーニングは、スタンフォード大学医学部の神経生物学・眼科学教授であるアンドリュー・フーバーマンによるポッドキャスト番組『Huberman Lab』や、長寿学の権威であるピーター・アティアの公式サイト『The Drive』でも取り上げられており、プロの持久系コーチやパフォーマンスの最適化にこだわるテック系の人々の間で注目のキーワードとなっている。ビッグデータ解析・AIプラットフォーム企業パランティア・テクノロジーズのCEO、アレックス・カープも支持者のひとりで、米ニュースサイトAxiosでのインタビューによると、ゾーン2を中心としたノルウェー式のトレーニング法を実践しているという。

「ゾーン2」という専門用語めいた名前のせいで、この種のトレーニングはひどく複雑に聞こえるかもしれない。しかも、その熱心な支持者たちは、最先端のスマートウォッチやチェストストラップ、トラッカーが内蔵されたスマートウェアを駆使して、ときに捉えるのが難しいこの状態にどれだけ長くいられたかを記録する(そしてそれをSNSで発信するような)タイプの人が多い。しかし実際には、比較的低い強度で長時間運動するだけのことだ。今回、『GQ』の取材に応じた専門家たちは、トレーニングの背後にあるメカニズムと、ほぼすべての人がフィットネスプログラムにこれを加えることで恩恵を受けられる理由を解説してくれた。

ゾーン2の範囲は人それぞれ

米国オリンピック委員会や全米陸上競技連盟と仕事をともにしてきたテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターのスポーツ心臓専門医、ベンジャミン・レバインによると、運動は一般に、最大心拍数に対する割合を目安として、おおよそ5つの「強度ゾーン」に分けられるという。

トレーナーによって独自の分類方法を設けていることもあるが、一般的にゾーン5は最大心拍数の90~100%(全力疾走のような非常に激しい運動で到達する強度)、ゾーン1は50~60%(速歩き程度)とされている。ゾーン2(60〜70%)はそれよりほんの少し強い運動で、軽いジョギングやゆったりしたサイクリングなどがこれに相当する。ただし、これはアスリートによって異なるもので、例えばマラソンランナーのエリウド・キプチョゲにとってのゾーン2のペースは、ほとんどの人にとっては桁違いの速さとなるだろう。

安静時からゾーン2までの低強度の運動で、体は主に脂肪をエネルギー源とする。脂肪は効率のいい燃料源だが、代謝するには大量の酸素が必要だ。強度が上がると、体はグリコーゲン(ブドウ糖をひとまとめにしたようなもの)という形で蓄えられた炭水化物を主なエネルギー源として使うようになる。 ゾーン2とは、有酸素運動から無酸素運動へ移る「クロスオーバーポイント」を超えない範囲で、できる限り高い強度で運動している状態だ。この境目を越えると、脂肪に代わって炭水化物が主要なエネルギー源として使われ始め、ブドウ糖の代謝によって生じる副産物である乳酸も蓄積し始める。

スタンフォード大学の臨床運動生理学者、ジェフ・クリストルが説明するように、これらのゾーンは明確に区切られているわけではない。これらは最大心拍数から見た割合の範囲でしかなく、ゾーン間の境界は「曖昧」だという。一般的な最大心拍数の70%を上回ったからといって、何か特別なことが起こるわけではない。

しかし、ゾーン2での長時間の運動には、全体的なフィットネスレベルの向上に役立つ特性があるようだ。30年近く前、運動生理学者でコロラド大学医学部教授のイニゴ・サン・ミランは、ミトコンドリア機能を「パフォーマンスの震源地」として注目していた(生物の授業で、この細胞構造を「細胞の発電所」として学んだことを覚えている人もいるかもしれない)。

元プロサイクリストであるサン・ミランは、UAEチーム・エミレーツのヘッドコーチ・パフォーマンス責任者であり、2020年と2021年のツール・ド・フランス優勝者タデイ・ポガチャルのパーソナルコーチを務めるなど、主にプロ選手を指導している。ミトコンドリア機能を向上させる運動強度を見つけたいと考えた彼は、血液サンプルからアスリートの乳酸値を測定した。その結果、ゾーン2でのトレーニングこそがミトコンドリア機能を刺激し、プロのサイクリストから週末に5kmを走る程度のアマチュアまで恩恵を受けられる、有酸素能力の基盤を築く最良の方法であることが明らかとなった。あらゆるタイプのアスリートにとって、ゾーン2トレーニングは、より速く、より長く走り続けられるようにするための方法だと彼は述べている。

専門家たちも、このゾーン2トレーニングを勧めている。クリストルによると、高強度インターバルトレーニング(HIIT)に比べ、ゾーン2トレーニングは一般的に安全で続けやすい。結局のところ、最良の運動とは継続して行えるものだ。

ゾーン2の持久力トレーニングに関心のある人に対して、クリストルは比較的多くのトレーニング量が必要だと付け加える。運動習慣を変えるのに必要な期間である12週間、週に3、4回、1時間ずつ行うことが重要だ。また、忍耐も必要だといえる。多くのアスリートは低強度のトレーニングを退屈に感じる上、週末のジョギング中にほかの人たちに次々と追い抜かれるというのは、プライドが傷つくものだ。

フィットネストラッカーに惑わされることなかれ

また、心拍数を追跡するフィットネステクノロジーは多種多様だが、データにこだわるアスリートは、自分の「ゾーン2」を正確に設定するのに苦労するかもしれない。サン・ミランは特定のブランド名こそ挙げなかったものの、一部のテクノロジーがデータを収集して洗練されたグラフを作成できたとしても、それが現実を正確に反映しているとは限らないと話す。

レバインはさらに踏み込み、「自分の心拍数や換気量を測定する運動負荷試験を受けていないなら、そのデータはすべて無視すべき」と意見する。こうした試験では通常、チューブに息を吹き込みながらトレッドミルやエアロバイクに乗り、酸素摂取量、二酸化炭素排出量、心拍数、そのほかの数値がモニタリングされる。レバインによると、試験を受けていない場合、心拍数ゾーンはアルゴリズムによって生成されているという。個人の実際の最大心拍数は、一般的に使われている計算方法で導き出された数字から最大で毎分20拍もずれることがある。そう考えると、こうした測定値は「まったく当てにならない」のだ。

サン・ミランも同じく、フィットネストラッカーやそのゾーン2の算出方法について懐疑的だ。「30年間研究を続けてきましたが、試験なしにあなたの『ゾーン2』がどこにあるかを特定することは、現在でもできません」

ガジェットにこだわるアスリートは、Stravaのラン記録をきれいな数字で締めくくるために近所をもう一周走ったり、WHOOPの「Strain(負荷)」スコアを最大にしようとウエイトトレーニングの後にローイングセッションを追加したりと、フィットネストラッカーの要求を満たすために自分のペースを無理に調整してしまうことがある。GarminやPolar、Apple Watchのフォーラムを覗くと、ゾーン2を見つけたり、その状態を維持するのに苦労しているユーザーの投稿も見受けられる。また、こうしたデバイスでは全力で行う運動がよいとされる(Stravaの「相対的エフォート」やWHOOPの「Strain(負荷)」スコアなど)一方で、長時間の低強度運動は必ずしも高く評価されるとは限らない。 Garminのユーザーのなかには、低強度・低ペースで行ったトレーニングが「非生産的」と判定されたという声もある。

しかし、トレーニング中に採血して乳酸値を測定していなくても、ゾーン2でトレーニングしているかどうかを大まかに判断する簡単な方法がある。それは、「トークテスト」だ。

「会話ができて、少し息が切れる程度がちょうどいいでしょう」とクリストル。「ただし、そのペースでも完全な文を話せるくらいです」。 このゾーンは最大心拍数の約70%にあたり、ほぼすべての人にとって達成可能なはずだと彼は述べる。もちろん、これは数十年にわたり持久系アスリートの間では常識とされてきたことだ。多くの点で、ゾーン2ブームは単に多くのアスリートがすでに知っていることに理論的な枠組みを与えているに過ぎない。

ゾーン2トレーニングは減量のための戦略ではない

ゾーン2トレーニングがこれほど注目されているとはいえ、それは運動という大きなくくりのほんの一部に過ぎないことを忘れてはならない。より具体的に言えば、日頃のトレーニングの約80%をゾーン2で、残りの20%を高強度で行うのが理想だ。サン・ミランによれば、エリートアスリートは低強度のトレーニングを多く行うが、ポガチャルのようなアスリートは「ほとんどの人間には耐えられない」ようなトレーニングもこなしているという。

高強度のトレーニングについては、レバインはかつてのノルウェースキーチームのワークアウトを推奨している。それは、最大心拍数の95%で4分間運動し、その後3分間休憩するという有酸素インターバルトレーニングを4回繰り返すものだ。「これは短期間で有酸素能力を高めるのに最適なワークアウトです」

ゾーン2では脂肪がエネルギーとして使われるため、減量のための魔法のような手段だと考えられがちだ。「脂肪燃焼モード」に入ったことを表示するクロストレーナーやトレッドミルが、その誤解を助長してきたのだろう。しかし、減量目的でゾーン2のトレーニングに取り組むのは、「見当違い」だとクリストルは指摘する。「ゾーン2は減量のための戦略ではありません。そもそも運動だけで減量するという方法は、これまでも、これからもありません。実に単純な計算の話です」

ゾーン2トレーニングを減量のための運動として考えるのではなく、体内のエンジンをより効率的にする手段だと捉えるほうが正確だろう。シックスパックができる日を想像するのではなく、細胞内のミトコンドリアが最高の効率で稼働している姿をイメージするといい。

また、今回話を訊いた3人の専門家は全員、シンプルに自分の体の声に耳を傾けることを推奨している。特定の数値に「魔法」のような効果などなく、むしろそのほうが励みになるはずだ。 運動時間の大部分を「じっくりと」行い、短い間だけ「強火で焼く」ような高強度運動を挟んでいれば、どんなに高級なスマートウォッチが何を表示しようと、自分がトップクラスの持久力アスリートのようにトレーニングできていると信じてほしい。

From GQ.COM

By Ashwin Rodrigues
Translated and Adapted by Motoko Fujita


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